研究概要 |
熱ショック蛋白質(heat shock protein,HSPs)は,細胞防御・機能維持に必須であり,多くのHSPsは非ストレス下でも細胞内に発現し,分子シャペロンとしての機能を有する.我々は主要なHSPsを哺乳動物から精製し、特異抗体の作製に成功してきた.以前,gentamicin(GM)腎症で,近位尿細管の障害されたライソゾームにHSP73が蓄積することを報告した.平成9年度はこのモデルで非分子シャペロンであるarginosuccinate syntetase(ASS)との局在変化を比較検討した.また,poly-D glutamic acid(PDGA)によるライソゾーム蓄積症モデルでHSP73,HSP90,ASSの局在変化と量的変動を比較検討した.さらに培養細胞にHSP72遺伝子を導入し、各種有害な環境や毒物に対する抵抗性を検討し以下の結果を得た. 1. GMをラットに投与し,HSP73とASSの局在変化を免疫電顕で観察し,HSP73が近位尿細管の障害されたライソゾームに特異的に蓄積することを確認した. 2. PDGA腎症でも,GM腎症と同様にHSP73,HSP90は障害されたライソゾームに特異的に蓄積することを見い出した.したがって,HSPsは傷害されたライソゾーム内で能動的な役割を担っていると考えられる. 3. HSP72の遺伝子をベクター(pBK-CMV)に導入し,リボソーム法によりブタ腎尿細管上皮細胞株(LLC-PK1)にトランスフェクションした.HSP72の過剰発現を抗HSP72抗体を用いた生化学的方法(immunoblot法)で確認し,HSP72過剰発現細胞株を作製した.この細胞株は過酸化水素およびシスプラチンによる障害に対して,コントロールより約2から3倍の抵抗性を示した.したがって,HSP72は尿細管細胞においても細胞防御・機能維持に必須と考えられる.
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