研究概要 |
背景:1992年、4例の特徴ある甲状腺乳頭癌が報告された。(Yamashita ct al.,Cancer 70:2923,1992)これは臨床的、摘出標本の肉眼的所見、組織学的所見、電顕所見いずれも通常の甲状腺乳頭癌とは異なる特徴的な所見を備えており、乳頭癌の新しい1亜型もしくは全く新しい型の甲状腺癌であることが示唆されている。以前より家族性大腸ポリポージスと甲状腺癌の合併の報告は散見されていたが、1994年、Harachの報告した4例の症例の組織像はこの報告症例と酷似している。(Harch et at., Histopathology,25:549,1994)。基礎的には、家族性質大腸ポリポージスの原因遺伝子であるAPC遺伝子は、ラット等の動物実験で、膵臓癌、および甲状腺癌の発生に関与することが示唆されている。これらの特殊なタイプの甲状腺乳頭癌の臨床的追跡、遺伝子的検索により、1.甲状腺乳頭癌の新しい1亜型もしくは全く新たなタイプの甲状腺癌組織方の確立、2.家族性大腸ポリポージスを中心とした、多臓器に異常をきたす新たな遺伝子疾患の発見、3.重複癌を含め、大腸癌、甲状腺癌、膵臓癌、乳癌と広く腺癌発生の追及への発展が期待できるものである。 臨床的研究:1.現在まで確認した9例の特殊型の甲状腺癌患者のうちすでに大腸手術の施行された1名を除く8名に対し、大腸の検索、特に内視鏡による生検を奨める。同時に各々の患者に対して綿密な家族調査を行い、必要に応じて家族にも甲状腺、大腸の検索を奨める。2.他施設に協力を仰ぎ、甲状腺癌患者と家族性大腸ポリポージスの合併例に対し、甲状腺癌組織標本を収集、組織肩を再検討しおこの特徴型に相当するかを確認、1.と同様必要に応じて家族の調査を行う。 基礎的研究:患者末梢血よりm-RNA,DNAを抽出しAPC遺伝子上の既知のhot pointに対してgemline mutationの有無を検索する。同時に他の遺伝子異常も検索を行う。 結果:全9例中7症例追跡可能であった。すでに大腸ポリポージスの手術を受けた1例を除く6例のうち明らかな家族歴を持つ患者はいなかった。大腸疾患の既往や、今までに注腸検査や大腸鏡を受けた患者もいなかった。この6症例について、大腸鏡を施行したところ、1例に数個のポリープを認め、2例に2個のポリープを認めた。残りの2例は粘膜の過形成もなく全く正常であった。ポリープの3例の生検結果はいずれもhyperplastic polypであった。 6例に同意を得て末梢血を採取した。抽出したm-RNAは保存の問題よりqualityが悪くRT-PCR不可であった。抽出したDNAより現在まで発表されているprimerでPCRを試みたが不可であった。いままでに使用していたras,gsp,gi2遺伝子はいずれもmutationをみなかった。 再度の新鮮な検体の採取を依頼するも、遺伝性疾患の関連で同意を得ることができなかった。
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