研究概要 |
(目的)主要組織適合性抗原が同一である一卵性双生子間、およびラットアイソグラフト間で行った腎移植においても慢性拒絶反応が発症することから,我々は慢性拒絶反応の発症メカニズムはドナーに対する免疫反応以外の要因、特に腎阻血再灌流障害が重要であると考え,ラット腎阻血再灌流障害モデルを用いてその影響について検討した.またHepatocyte growth factor(HGF)が腎阻血障害を軽減させると言う報告から,HGFの慢性拒絶反応に対する治療効果を検討すると共にHGFをprobeとして慢性拒絶反応の発症メカニズムを解析した. (方法)移植していないnaive Lewラットに腎阻血再灌流障害を生じさせ(Lewラットの腎動静脈を45分間クランプし阻血障害を加え対側の腎臓を摘除する),障害を受けた腎に慢性拒絶反応の所見が認められるかどうか長期的に(72週間)観察した.また同モデルにHGFを投与し,HGFの慢性拒絶反応に対する治療効果を検討すると共にHGFをprobeとして慢性拒絶反応の発症メカニズムを免疫組織化学やRT-PCRを用いて解析した.実験群としてGp1)Lewラットの腎動静脈を45分間クランプし阻血障害を加える(対側の腎臓は摘除)Gp2)Lewラットの腎動静脈を45分間クランプし阻血障害を加え対側の腎臓を摘除し,HGF200mgを術後2週間連日静脈内投与する(HGF治療群)Gp3)無処置ラット(コントロールグループ). (結果)コントロール群では,術後40週目以降尿蛋白量は漸次増加し,52週目を過ぎる頃から腎不全のため死亡するラットが認められた.組織学的には術後24週目頃から極軽度の糸球体内および血管周囲の炎症性細胞浸潤が認められ,間質では軽度の尿細管萎縮が見られた.40週目には糸球体および血管周囲の炎症性細胞浸潤は増強し,より多くの尿細管に萎縮所見が認められた.52週目には炎症性細胞浸潤はピークに達し,また,20%以上の糸球体に種々な程度の硬化像が見られ,間質では硬化した糸球体の周囲を中心に尿細管の萎縮や線維化所見を認めた.52週目以後は糸球体における炎症性変化は減退し,慢性拒絶反応の典型的な所見である間質の広範囲な線維化と高度な糸球体硬化像が認められた.また,この時期には血管の変化も著明となり,30%以上の血管で内皮細胞や平滑筋細胞の増殖が認められた.免疫組織化学では,術後32週目から糸球体内において接着分子(ICAM-1,VLA-4)の発現が顕著となり糸球体や血管周囲では軽度のマクロファージの浸潤が認められた.マクロファージの浸潤に伴い,その産生物であるIL-1α,TNF-α,TGF-βなどのサイトカインが糸球体内で多量に認められ,以後これらの細胞浸潤やサイトカイン産生は減少した.これに対してHGF投与群では,全観察期間72週を通して尿蛋白量は15mg/day以下,血清クレアチニン値は1.0mg/ml以下と正常値を保ち,無処置コントロール群との間に差を認めなかった.組織学的にも慢性拒絶反応を示唆する所見は殆ど認められず,ほぼ正常であった.現在,免疫組織化学的に,詳しいメカニズムについて検索中である.
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