1) DDB-Exマウス肝癌モデルにおける肝切除の影響:0.3%DDB-Ex溶液をICRマウスに自由飲水させ肝細胞癌を発生させるモデルである。DDB-Ex単独投与群とDDB-Ex+肝切除群に分け、化学発癌における肝切除の影響につい検討した。肝切除は飲水開始後5週目に体積で約20%の切除を行い、35週目と50週目に屠殺した。腫瘍の発生はDDB-Ex単独投与群で35週で60%、50週で100%であったのに対し、DDB-Ex+肝切除群では35週で90%、50週で100%であり肝切除が化学発癌において腫瘍発生のプロモーターとして働いていることが明らかとなった。 2) 肝細胞癌では肝炎、肝硬変を基礎に有し、初回手術後も多中心性に第2の肝細胞癌が発生しやすいことを我々は明らかにしてきた。前述の肝切除がヒト肝細胞癌発生のプロモーターとして働くとすれば、初回手術後の治療により第2の肝細胞癌の発生を抑制しうるのではないかと考えた。肝細胞癌は血管新生の著しい腫瘍であり、血流支配も門脈から動脈支配へと変化する。この血管新生を肝切除に抑制することにより新たな肝細胞癌の形成を抑制できるのではないかと考えた。血管新生の抑制には、TNP-470(武田薬品工業より提供)を用いた。TNP-470はフマギリンの誘導体で、血管内皮細胞のシグナル伝達阻害によりin vitroでは血管内皮細胞の増殖を抑制し、in vivoでは血管新生を抑制する。TNP-470を10ng/kgで肝切除後より1週間目から隔日皮下投与を行った。20週投与後20週間DDB-Exの投与を継続、肝切除後より40週目に屠殺し、肝腫瘍形成の有無、個数について検討した。その結果TNP-470投与群と非投与群との間に有意差はみられなかった。すなわちマウス肝細胞癌化学発癌モデルにおいては血管新生の抑制は発癌の抑制には直接関与しないものと結論づけられた。
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