前年度までの研究において、(1)実験的に作成された関節軟骨損傷は、正常の関節環境において部分的に修復される。(2)これは非荷重の条件下で促進される。(3)病的関節内の非荷重条件下でも修復反応は認められるが、その程度は劣る、ことが観察された。 以上の結果を踏まえ、部分的に修復された関節軟骨が、生理的な環境において長期的にいかなる変化を生じるかを検討した。具体的には、成熟家兎を用い、正常関節内で非荷重条件下で修復された骨軟骨複合体を、正常関節と靭帯切離による不安定性を有する膝関節の荷重部に作成した骨軟骨欠損部に移植し、12週・24週にて肉眼的・組織学的に観察した。 1、 正常関節での結果 肉眼的には移植軟骨面は平滑であるが、正常関節面とは曲率の差から判別可能である。組織学的には、硝子軟骨は認めるものの正常組織と比較すると細胞密度が高く、軟骨基質の分布も不均一であり、正常組織とは異なっていた。 2、 不安定膝での結果 肉眼的には移植軟骨は、表層の毛羽立ちと周囲軟骨との亀裂が観察された。周囲軟骨においても繊維化を認めるが、その程度は移植軟骨において著しい。組織学的には軟骨層の亀裂・線維化、軟骨細胞の集簇、軟骨基質の減少など変性変化を生じていた。この変化は観察期間が長期に及ぶほど進行した。 3、 まとめと今後の展望 以上より、修復された骨軟骨複合体は、良好な環境においてはほぼ正常と近い機能を維持することが期待されるが、環境が不十分であれば易損性が高く、早期に変性に陥るものと考えられる。関節軟骨の修復に、正常関節内で修復を試みた骨軟骨複合体移植が利用できる可能性が示唆されたが、さらにより正常に近い関節内環境の獲得と軟骨代謝を調節する何らかの付加が必要と考えられ、今後の検討を要す。
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