研究概要 |
全身麻酔とグルタミン酸受容体の関係を検討するために,疼痛(侵害刺激)に対する交感神経反応に及ぼすグルタミン酸受容体拮抗薬の影響を検討した. 研究にはWistar雄ラットを用い,ウレタン及びα-クロラロースにて麻酔を行い,気管切開ののち調節呼吸下で実験を行った.右大腿動脈,静脈からそれぞれ動静脈カテーテルを挿入し,圧トランスデューサに接続して脈拍・血圧測定を行うと共に薬剤投与経路に使用した.侵害刺激として,左後肢ピンチ刺激を用いた. 今年度は実験系を作成・確立するとともに,NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬MK-801の静脈内投与の影響を検討した.まず,MK-801を静脈内投与した場合に交感神経系に最大作用をもたらす時刻について検討し,薬物投与後15分の時点で刺激を行うこととした.次に,MK-801の投与量について検討し,0(コントロール),10μg/kg,100μg/kg,1mg/kgを投与した場合の,刺激前後の脈拍・血圧の最大変化を刺激前値の百分率にした値について解析を行った. 侵害刺激に対する血圧・脈拍の変動は,共にMK-801投与により用量依存性に抑制された.その効果はMK-801を投与しない場合に比較して,10μg/kgで55〜75%,100μg/kgでは30〜40%,1mg/kgでは22〜27%であった.この結果は,既に報告した体性-自律神経反射を用いた検討の結果ともよく一致した.また実験を通じて,MK-801の投与後から作用が持続していると考えられる時間帯については,血圧・脈拍が投与前に比べて安定していた.循環動態上からはあたかも麻酔薬が投与されたような状態であったが,この現象を数値化して比較するのは困難であった. 次年度では,投与経路を脳室内,脊髄内とし,グルタミン酸受容体拮抗薬が侵害刺激に対する交感神経反応を抑制する部位についての検討を行う予定である.
|