モルモットの発生工学的応用を図るため、モルモットにおける遺伝子標的破壊動物を作成する際に必須となる胚幹細胞(ES細胞)の作成を試みた。マウスにおけるES細胞の樹立は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)由来の細胞がフィーダ細胞と共培養することによりなされるが、これまでの観察からモルモット胚の体外培養下でのハッチング様式はマウスと異なり、栄養芽細胞の突出および増殖が顕著でICMが透明帯から脱出しない。さらに、発生学上マウスで見られる胎盤外円錐形成に伴うICMの栄養膜外胚葉からの脱出がモルモットにはないという特徴がある。そこで、Fub:Hartley系モルモットの交配により胚盤胞を採取し、A)無処理の胚盤胞(n=5)、B)低pH処理(Acidic Tyrode液)により、透明帯を除去した胚盤胞(n=6)、およびC)透明帯除去し、さらに界面活性剤(Triton-X)処理により栄養芽細胞を除去した胚盤胞(n=15)の3実験区を用意した。A区では、予想通りフィーダ細胞に付着するものの栄養膜外胚葉の増殖だけが顕著に見られ、ICMは透明帯内にとどまったまま出てこなかった。B区においても栄養膜外胚葉の増殖し、多層性の球状構造を形成するのみで、ES細胞に特徴的な細胞集団は出現しなかった。C区の場合は、界面活性剤処理により死んだ例も3例あったものの、非常に凝集した細胞集団が初期に観察された。しかし、継代の後、多層性の球状構造が主体となり最終的にはB区と同じ状態となった。結果的にどの実験区でもES細胞の樹立はできなかったが、胚盤胞の体外培養での挙動がマウスとは非常に異なることがわかった。おそらく単離ICMを用いる必要がある点が特徴的といえよう。さらにフィーダ細胞の選別やサイトカインの利用を考える必要があろう。
|