成熟動物における中枢神経系では通常、神経の再生は生じないとされている。しかし、第I脳神経に属する嗅細胞は、幹細胞(再生母細胞)を有し、再生が生ずるという能力を有する特異な神経細胞である。 平成7年度科学研究費補助金研究により動物の嗅上皮内の分裂細胞(再生母細胞)を観察したところ、加齢に伴ってある一定の変化を示すことが分かった。すなわち生直後は多数存在するがその後減少し、生後4カ月から24カ月までほぼ一定数となり、その後徐々に加齢に伴って減少していた。一方嗅細胞数は成長各期においてほぼ一定であった。嗅細胞の寿命が環境の変化に応じて変わりうることが示唆されているが、どのような因子がこれに関係しているのか未だ不明な点が多い。そこで最近神経細胞の増殖・分化に関与していることが確認されている線維芽細胞増殖因子(FGF)について、この因子が嗅細胞においてもその増殖・分化に影響を与えるのかを、検討することとし、平成10年度では、実際にモルモットにFGFを投与し、嗅細胞に与える影響を調べた。その結果、FGFは嗅上皮内に存在する前駆細胞である分裂細胞の増殖、すなわち嗅細胞の増殖を促進することが分かった。FGFの投与経路については経静脈的投与は効果なしとする意見もあり、今後も慎重に検討を重ねる必要があるが、今回の実験では腹腔内投与にて有意に分裂細胞の増加が確認された。
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