1、話速変換処理方法には本邦では、東京医大-NHK方法と北大-日立方法があり、両方法とも全母音部の伸張処理を行い、語音明瞭度の改善を報告している。しかし、これらの方法では入出力音声間の時間的遅延が広がってゆき、テレビやラジオなど一方的に与えられる音声には有効かもしれないが、実際の会話には対応できない問題点がある。その点を改善するため、最初の5音節の母音だけ伸張処理し、後半の文節を短縮することにより実時間内に音声処理を行う話速変換方法を考え、人工内耳装用者と補聴器装用者を対象に検討し、その有用性の評価を行った。 2、補聴器装用者12名、人工内耳装用者10名に対し、最初の5母音に130%、150%、170%の伸張率をかけた音声サンプルをDATテープに録音し、文章了解率を文節ごとに比較検討した。 3、補聴器装用群・人工内耳装用群とも130%伸張が最も文章了解率が良かった。これを文節ごとでみると、130%伸張の第1、2、3文節までは、他の伸張率のものやオリジナルに比べ了解率が高く、4、5、6文節はオリジナルと変化は認められなかった。したがって最初の5母音を伸張することにより文章了解度の改善が期待でき、130%伸張率が最も良い結果が得られた。しかし、中には150%や170%伸張に最も良い了解度が得られた方もみられ、個人差、または内耳・後迷路・中枢と難聴の障害部位や程度のちがいによっても異なることが推測でき、最適話速伸張率に関してはさらに検討が必要と考えられた。
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