研究概要 |
神経回路は標的組織や環境組織に発現する誘引分子と反発分子によって形成される。本研究では一次前庭・聴覚路の形成メカニズムを明らかにするため神経反発分子であるコラプシン/セマフォリン分子に注目した。宮崎らが同定したセマフォリンHの発現を調べたところ胎生早期から耳胞に局在し強く発現していたのでマウス内耳におけるmRNA分布を検討した。胎生10日では将来の内リンパ器と前庭器原基が形成される耳胞の背側部にセマフォリンHのmRNAが発現していたが将来鍋牛官原基が形成される腹側部には発現していなかった。胎生11日では形成され始めた内リンパ嚢と内リンパ管および耳胞背側部にmRNA発現が観察されたが,耳胞腹側部では発現が見られなかった。胎生14日から三半規管や鍋牛官が分化し出生直後で平衡覚・聴覚器の形成はほぼ完成する。セマフォリンHのmRNAは平衡覚器である半器官に強く発現するが感覚細胞の存在する膨大部では弱い発現であった。平衡覚器の中でも卵形嚢や球形嚢では発現が弱く,鍋牛官には発現は見られなかった。以上の結果から1)セマフォリンHが内リンパ液を再吸収することなどにより調節している内リンパ嚢や内リンパ管壁に発現することから内リンパ液の成分調整に関与している可能性が考えられた。また,2)平衡覚器のうち,感覚細胞の存在しない半規管上皮に局在することとセマフォリンHが神経反発分子であることから前庭神経節から感覚上皮に特異的に分布する機構に関与している可能性が考えられた。
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