「光」が眼血管内皮細胞の一つの役割である「血液関門」に及ぼす影響を調べるため、主に免疫組織学的手法により検索した。動物はラットを用い、麻酔下で紫外線照射装置によって眼に光照射(UV-A)を行い光障害モデルを作製した。光照射後、経時的に眼球を摘出し以下の検討を行った。 平成9年度までの検索の結果、光障害により特に虹彩における血管内皮細胞の血液関門機能が消失し、同時にICAM-1などの接着因子発現が一過性に認められた。しかし内皮細胞がMHC class IIに終始陰性であったことより、軽度の光障害では血液関門機能を消失するも、免疫学的なバリアは温存されていることが考えられた。 今年度は光顕レベルによる詳細な形態学的検索に加え、免疫電顕を用いた観察を行った。 今回の光照射条件では、上記所見が認められるものの炎症細胞浸潤は終始認められなかった。これは自己抗体接種や外来抗原刺激によるブドウ膜炎モデルにみられる炎症性細胞浸潤を伴う局所炎症反応と異なり、光障害による炎症のカテゴリーが「非炎症性ストレス」であることが推測された。 免疫電顕による検索の結果、光照射眼の虹彩血管では、同一の血管腔における内皮細胞でも腫脹した内皮細胞膜表面にICAM-1の発現が認められた。しかし隣接する比較的フラットな内皮細胞では陰性であることが観察された。またMHC class IIは血管周囲のマクロファージやある種樹状細胞に陽性であったが、内皮細胞自身は終始陰性であった。 一般的に、肉芽組織などの毛細血管内皮細胞は、高円柱状内皮細胞(HEV)に分化しICAM-1やclass IIを表出し、積極的にリンパ球やマクロファージなどを動員する形で炎症修復に関与していることが報告されている。 以上のことから、虹彩血管内皮はある種光障害に対しては、血液関門機能は消失するが過剰な炎症反応を示さない「非炎症性ストレス反応」を引き起こすことが考えられた。すなわち虹彩血管内皮を始めとする一部の眼血管内皮細胞は、光ストレスに対し免疫偏位(immunomodulation)を示し、他臓器とは異なる免疫システムに支配されていることが推測された。
|