研究概要 |
硝子体有形成分の液化は病態と複雑な関連性を持っており,硝子体線維の収縮・牽引なしに硝子体を液化させる手法が見いだされれば,難治性眼底疾患の治療において有効な手段となる.我々はこれまで生体内水分子動態を捉えうるプロトンNMRを応用して硝子体水構造解析を行ってきており,本研究では硝子体の液化状態を非侵襲的に描出する手法を開発し,理想的液化法を見つけることが目的であった.平成9年度には硝子体は大量の自由水を含むこと,結合水は量的にかなり少なく動的に動きにくい状態となっていることを確認した.また周囲のイオン環境や膠質浸透圧を変化させることにより硝子体ゲルの相転移を試み,経時的な緩和時間・化学シフトの変化をみた結果,相転移は自由水よりも結合水成分により明らかな変化を与えるものと考えられた.平成10年度はin vivoイメージングを目標として実験を継続した.まず摘出豚眼を用い,グラジエントエコー法によるプロトン強調画像,スピンエコー法によるT1・T2強調画像によるイメージングを行った.部位差を描出するため視軸に対して水平・垂直・矢状の三方向で画像化を行った.また硝子体中心部を手術的に除去し,この部位に硝子体液化物質を注入して硝子体液化を試みた.その結果,豚眼硝子体は外見上明らかな粘性の低下を認め,液化進行が確認されたにも関わらず,得られた画像上では液化物質注入前と比べてさほど大きな変化は認められなかった.生体眼と摘出眼とでは条件が異なるため,次の段階として白色家兎を用いて生体眼によるin vivoイメージングを試みたが,結果は同様であった.すなわち現在用いられている磁気共鳴画像法では,豊富に存在する自由水の影響で結合水の変化を鋭敏にとらえることができないため,画像化に失敗したものと考えられた.画像化にあたって有意な変化が捉えられなかったため,今年度の結果は学会にて発表を行うことができなかった.
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