研究概要 |
平成10年度はpIgR遺伝子発現におけるNF-κBの役割について検討した。 1. 方法 (1)cycloheximide(CHX)(2.5μg/ml),12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)(10ng/ml)を用いてHT-29細胞をそれぞれ1.5時間、48時間TNF-αの共存下で刺激し、nuclear extractを抽出した。ヒトpIgR遺伝子5'上流域のNF-κB結合部位(κB2,転写開始地点側)のDNAをprobeとしてgel shift assayを行った。 (2)HT-29細胞を1)と同様に48時間co-stimulation後RNAを抽出し、northern blot法によりpIgR mRNA発現を検討した。一方、NF-κB阻害剤であるpyrrolidinedithiocarbamate(PDTC)を用いて、TNF-αによるpIgR遺伝子発現が阻害されるか検討した。 2. 結果 CHXとTNF-αのco-stimulationにより、48時間後にはNF-κBのtranslocationは完全に抑制された。TPAとTNF-αのco-stimulation48時間後ではNF-κBのtranslocation量はTNF-α単独よりも増加した。また、CHXまたはTPAとのco-stimulationいづれにおいてもpIgR mRNA発現は完全に抑制された。PDTC処理によりpIgR mRNAの発現は抑制されたが、完全な抑制ではなかった。 3. 考察 CHXとYNF-αのco-stimulationにより、NF-κBのtranslocationとpIgR遺伝子発現の双方が阻害されていることは、TNF-α刺激によるpIgR遺伝子発現には新規タンパク質合成が必要であり、その一つに、NF-κBの新規合成が関与していることを示している。しかしながら、NF-κB阻害剤によるpIgR遺伝子発現の抑制が不完全であったことは、pIgR遺伝子発現にはNF-κBの活性化だけではなく、他の制御因子も必要であることが示唆される。また、TNF-αとTPAによるNF-κBの活性化はTNF-αとTPAそれぞれの作用によるIκBリン酸化の相加作用の結果であると考えられるが、pIgR遺伝子発現が完全に抑制されていることは、PKCの活性化によって抑制される制御因子の関与が示唆される。
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