本研究は脳虚血・再灌流障害や老化過程に関与すると考えられるラジカル反応性の高い活性酸素種の作用メカニズムを解明することを目的としている。これまでに、培養神経細胞とアストロサイトを過酸化水素(H_2O_2)で処置すると、DNA傷害を引き起こしながらそれぞれの細胞死が異なった時間及び濃度依存性を示すことを明らかにしてきた。さらに本研究の初年度では、それぞれの細胞にH_2O_2を短時間適用し、DNA傷害修復能を反映するチミジン取り込みのメカニズムについて薬理学的手法を用いて検討し、次の結果を得てきた。H_2O_2は神経細胞ではなくアストロサイトにおいて、ウリジンではなくチミジンの取り込みを促進した。H_2O_2によるアストロサイトのチミジン取り込みの促進効果は、細胞外液と細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>の細胞質への流入に依存し、細胞内Ca^<2+>キレーターであるBAPTA-AMによって完全に抑制されることから細胞内遊離Ca^<2+>の存在を必要とした。さらに、H_2O_2短時間処置時に細胞内遊離Ca^<2+>が存在しないと、その後の細胞死が促進された。また、同処置によりDNAの断片化が観察され、H_2O_2は細胞内遊離Ca^<2+>依存的にアポトーシス様の細胞死を引き起こした。そこで本研究の2年目においては、H_2O_2によるアストロサイトのチミジン取り込みとその後の細胞死やDNAの断片化に対する細胞内Ca^<2+>貯蔵部位の詳細を検討し、リアノジン受容体、及び、IP_3受容体の活性化がこれらを促進することを明らかにした。さらに、チロシンキナーゼ情報伝達系もこれらに対して影響を及ぼすことを明らかにした。また、H_2O_2によるアストロサイトにおける障害や回復に関与する可能性のある蛋白質発現をディファレンシャル・ディスプレイ法により遺伝子レベルで検討したところ、いくつかの差異遺伝子を検出した。これらの差異遺伝子が発現量に差があるmRNAに由来するのかを現在確認するとともに、これらの遺伝子がどのような役割を果たしているのかについて、シーケンシングやノーザンプロットなどを行い検討することとしている。
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