研究概要 |
本研究では原唾液からイオンを再吸収するしくみを明らかにするために、画像解析システム(ARGUS 50)及び共焦点レーザー顕微鏡を用いて唾液腺の導管細胞におけるイオン輸送系および細胞内情報伝達系の解析を行った. 1. 耳下腺導管細胞のカルシウム・シグナル (1) ムスカリン受容体を介する反応:導管を構成するほとんど全ての細胞がムスカリン作動性受容体作動薬カルバコールに反応した。0.1-1μMのカルバコールではカルシウム・オシレーションが観察され、10μMでは一過性のカルシウム反応が起こった。これらの反応は腺腔側から始まり1秒程度で基底側に広がるカルシウム・ウェーブとして観察された。 (2) β-アドレナリン受容体を介する反応:β-アドレナリン受容体作動薬であるイソプロテレノール(0.1-1μM)は、導管を構成する細胞の約半数に対しカルシウム・オシレーションを誘発させた.イソプロテレノールで観察されたものと同様の反応があるアデニレート・シクラーゼ活性化薬フォルスコリンでも観察された事から、この作用はcAMPを介した反応であると考えられた. cAMPがカルシウム反応を起こすと言う新しい現象が観察された.今後はそのメカニズムについてさらに検討を行う予定である.特にイソプロテレノールに対する反応が細胞によって異なる事から、導管細胞の中で役割分担がある事が示唆される. 2. 耳下腺導管細胞における電解質輸送 イオン感受性蛍光色素を用いてNa^+,K^+,Cl^-動態の解析を試みたが、使用する薬物やイオン同士の干渉作用などの技術的な問題により測定ができなかった. カルシウム・シグナルの解析から導管細胞の多様性が明らかになり、個々の細胞におけるイオン輸送のメカニズムを明らかにする事が重要な課題となった.今後、蛍光色素特有の問題を避けるため、電気生理学的な方法でイオン動態を解析する事が必要である。
|