研究概要 |
本研究では,耳下腺腺房細胞におけるcAMP依存的なアミラーゼ分泌の分子機構の解明を目的として,SNAREタンパク質のひとつであるVAMP2の機能発現メカニズムについて解析を行った。そのために,VAMP2にたいする抗体anti-SER4256を作製し,免疫沈降によって腺房細胞内におけるVAMP2の状態を調べることにした。ラット耳下腺腺房細胞から分泌顆粒膜を単離し,可溶化後,免疫沈降を行った。すると,可溶化成分にVAMP2が含まれているにも関わらず,VAMP2の沈降は見られなかった。それに対して,可溶化分泌顆粒膜画分に細胞質画分およびcAMPを反応させた後,免疫沈降を行うと,VAMP2の沈降が確認された。この効果は,cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の特異的な阻害剤であるH89によって阻害された。また,cAMPのかわりに,PKAの触媒サブユニットを加えた場合にもVAMP2の沈降が見られ,PKAの活性化が,anti-SER4256によるVAMP2の免疫沈降に必要であることが示された。これらのことから,VAMP2は,刺激をしない状態では何らかのタンパク質と結合しており,それにより抗体がVAMP2と結合できない状態にあると考えられる。anti-SER4256によるVAMP2上の認識部位は,t-SNAREとの相互作用に必須であることが報告されており,PKAの活性化を介してこの部位が露出することによって,はじめてVAMP2とt-SNAREとの結合が可能になると予測される。また,PKAの触媒サブユニットだけではVAMP2の免疫沈降が起きず,細胞質が必要なことや,PKAによってリン酸化されることが必要なのは,細胞質画分であることが明らかになった。したがって,細胞質に存在する何らかのタンパク質のリン酸化を介して,VAMP2のt-SNARE結合部位の露出が引き起こされると考えられる。
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