研究概要 |
今年度は、咀嚼筋からの侵害入力による三叉神経脊髄路核(SpVc)ニューロンの受容野特性の可塑的変化(刺激に対する興奮性の増大、受容野の拡大)が抑制性伝達物質(GABA,Glycine)を介するか否かについて検討した。 ウレタン麻酔下のラット(n=8)のSpVcにマルチバレル微小電極を刺入し口腔顔面領域に受容野を持つニューロンをユニット放電として記録した。受容野の同定されたユニット21個のうち、19個は広域作動(WDR)ニューロン、残りの2個は特異的侵害受容(NS)ニューロンであった。その後記録電極近傍にGABA拮抗薬(Bicuculline)またはGlycine拮抗薬(Strychinine)を電気泳動的に微量投与し受容野特性の変化を調べた。Bicuculline(30-50nA,3-5min)の投与により、ほとんどのユニット(13/14;93%)において、受容野の拡大及び触・侵害刺激に対する興奮性の増大(促通)が認められた。この変化は触刺激に対する機械刺激の閾値の低下を伴っていた。これらの変化は15-20分後には回復した。一方Strychinine(30-50nA,3-5min)の前投与により、受容野の拡大(5/9;56%)及び触・侵害刺激(3/9;33%)に対する促通が認められた。 次に、マスタードオイルを用いた咀嚼筋の侵害刺激により誘発されるSpVcの受容野特性の変化がGABAまたはGlycineの前投与(電気泳動的)により拮抗されるか否かを他のラット(n=9)を用いて検討した(WDR 9 ユニット)。GABA(30-50nA)の前投与(n=3)及びStrychinine(30-50nA)の前投与(n=3)によりほとんどのユニットの促通及び受容野の拡大は部分的に抑制された。GABA,Glycine(30-50nA)の同時投与(n=3)により完全に抑制された。 これらの結果は咀嚼筋からの侵害受容入力による三叉神経脊髄路核ニューロンで生じる可塑的変化はこの領域に存在するGABA,Glycineを介した抑制性介在ニューロンの脱抑制により生じる可能性を示唆している。
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