研究概要 |
本研究は咀嚼運動の脳機能に及ぼす影響を脳内で発現している神経関連遺伝子の量的変化として捉えることを目的とし、これに合う実験系の確立を行ってきた。アイソトープでラベルしたc-fos,cRNA.プローブを用いてのin situ hybridization法により刺激に応答する脳内領域のマッピングの系を確立してきた。今回、Northern Blotting法及びRNaseプロテクションアッセイ法により神経関連遺伝子の発現レベルの精密な比較定量を行った。 これまでにラットの三叉神経を電気刺激し、それに応答する脳内領域のマッピングを行ない、三叉神経の中枢入力経路に符合してc-fos遺伝子の発現が起こることを解析してきた。しかしながらこの系では三叉神経脊髄路核、中脳路核等の非常に微小な領域に限って発現しており、その領域からRNAを抽出し比較定量することは大変困難である。一方、餌を与え咀嚼運動を起こさせたラットでは、摂食開始1時間後において海馬や大脳皮質の一部の領域でc-fos遺伝子の発現の上昇がin situ hybridization法により観察された。海馬は摘出が容易であるので、今回ここからmRNAを調整しNorthrn Blotting及びRNaseプロテクションアッセイによりNGF,BDNF,NT-3等の神経関連遺伝子の発現レベルの比較定量を行った。しかしながらどの遺伝子の発現レベルにも摂食の前後で有意な差は見られなかった。さらにはc-fos遺伝子の発現レベルにおいても差が見られなくなっており、大きな領域での比較では差が検出できなくなる可能性が示された。このことから、非常に限られた微小な領域での遺伝子の発現の定量はin situhybridization法に頼らざるを得なく、この手法の定量性をさらに向上させることが重要であると考えられた。
|