研究概要 |
本研究では象牙質を露出させた複数個の歯根部試片をヒト口腔内に係留し、それらを一定期間毎に順次摘出することにより、in situにおける歯根部象牙質齲触の経時的モデルを作製した。そして試片から得た光学顕微鏡用連続切片に過沃素酸-チオカルボヒドラジド-蛋白銀-物理現像法(PTSP法)染色を行い、その染色像をコンピュータにより三次元的に再構築することで、試片表層プラークおよび象牙細管内に存在する菌体関連多糖を保有した細菌(以下PTSP陽性細菌)の局在を立体的に解析した結果、以下の所見を得た。 1, 実験開始2および4ヶ月後の試片において細菌が侵入していた象牙細管は、試片表層近くの部分で拡大していたが、試片表面は各実験期間とも、口腔内に係留しなかった試片の表面とほぼ同様の起伏を呈し、著明な微細形態学的変化を認めなかった。2, 試片表層プラーク中のPTSP陽性細菌は、実験開始1週後の試片表面の約50%の領域で接するように存在していたが、実験期間が長い程その領域は狭小化傾向を示した。3, 実験開始1週後ではPTSP陽性細菌が侵入した象牙細管数は少なく、また侵入深度も小さかったが、1ヶ月後の試片においては細菌が極度に深部へ侵入した象牙細管が少数存在し、細管毎に細菌侵入速度が明らかに異なることが示唆された。また2ヶ月後では大多数の細管でほぼ同程度に深部への細菌侵入を認め、4ヶ月後においてその平均的な侵入深度は増大した。 この検索系とは別に、一部の切片に特定細菌を検出するための酵素抗体法染色を施したところ、Streptococcus mutansおよびStreptococcus sanguisは共に実験開始1週後で既に象牙細管内へ侵入していたのに対し、Lactobacillus caseiはプラーク中で僅かに検出されたものの、全実験期間を通して細管内への侵入は認められなかった。
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