研究概要 |
歯根膜細胞における炎症性サイトカイン発現に対する抗生剤の影響を以下の実験によって検討した. 1. ヒト歯根膜細胞の培養 矯正学的理由で抜歯した小臼歯より無菌的に歯根膜を摘出し,組織片を10%ウシ胎児血清を含むα-MEM(α-modified minimum essential medium)培地にて培養した.実験には継代数5〜10代までを用いた.コンフルエントに達した細胞を腫瘍壊死因子(TNF-α)や各種抗生剤を含む培地に交換して培養し,以下の実験を行なった. 2. ノーザンプブロット法によるIL-6mRNA発現の検討 培養細胞の全RNAをAGPC(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform)法で抽出し,ノーザンブロット法によりIL-6mRNA発現を調べた. 3. IL-6の測定 ELISA法によりIL-6産生量を測定した. 4. ゲルシフト法による転写因子活性化の検討 培養細胞の核蛋白をDignamらの方法で抽出し,NF-κBおよびAP-1に対するコンセンサス合成DNAを用いて,ゲルシフト法により転写因子の活性化を検討した. 以上の実験から,次のような結果が得られた. ヒト歯根膜細胞の培養において,TNF-α刺激によるIL-6mRNA発現をクロラムフェニコール,ロキシスロマイシン,ダラシンは抑制し,ホスミシンは増強した.また,ロキシスロマイシンはTNF-α刺激によるIL-6産生を有意に抑制し,NF-κBおよびAP-1の活性化を抑制した. 根尖性歯周炎の病態の修飾には多くのサイトカインが関与していると考えられているが,ある種の抗生剤が炎症性サイトカインの発現を調節しうる可能性が示唆された.今後,他の炎症性サイトカインへの作用およびサイトカイン発現を調節する転写因子の活性化について検討し,その作用メカニズムを明らかにしていきたい.
|