研究概要 |
平成9年度に開発を行った磁気位相空間を応用した超微小偏位測定器を用い成人男子10名(平均年齢27.8歳)を対象に咬合力作用時における歯の歪みを測定した.測定は齲蝕等による実質欠損や歯冠修復の施されていない左側上顎第1小臼歯について行った.各被験歯の頬側歯面に垂直方向に4mm離れた2標点を設け,咬合力作用時におけるこの標点間距離の変化を偏位計を用い測定し,歪み量として判定した.被験歯に対応する下顎歯列部にオクルーザルテーブルを設け,このテーブル上にロードセルを配置し負荷した咬合力を測定しつつ,その負担部位を頬側咬頭,舌側咬頭、咬合面中心窩の3カ所に変化させるように工夫した.負荷した咬合力はビジュアルフィードバックを用いその最大値が20kgf以下となるように調節した. 頬側咬頭負荷時の10例中3例において第1小臼歯頬側面は伸展した.また口蓋側咬頭負荷時の8例,中心窩負荷時の2例において同様の伸展が認められた.頬側歯面短縮は頬側咬頭負荷時の4例,口蓋側咬頭負荷時の1例,中心窩負荷時の1例において認められた.他の例においては負荷した荷重と歪み量の間に有意な相関を認めなかった.咬合力に対する歯の歪み量の平均は頬側咬頭負荷時で19.7nm/kgf(s.d.,26.1nm/kgf),口蓋側咬頭負荷時で5.62nm/kgf(s.d.,4.51nm/kgf),中心窩負荷時で3.29nm/kgf(s.d.,1.79nm/kgf)であった.Wilcoxon signed-ranks testを用いた結果,頬側咬頭負荷時と口蓋側咬頭負荷時歪み量の間に有意の差が認められた(P<0.05). 本研究の結果は咬合力作用時における歯の歪み量とその方向は,荷重を受ける咬合面の部位とその方向に密接に関与していることを示している.
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