研究概要 |
本研究では,高齢者の健康にとって口腔ケアがいかに重要であるかということを明らかにするための客観的データを収集することを目的とした.そこで,口腔内細菌の定量評価および,唾液性状(接触角,ムチン量,タンパク質量,ブドウ球菌に対する抗体価)の評価を,若年者および高齢者を対象に検討した.口腔内細菌叢は咽頭後壁より綿棒でできるだけ一定面積になるようにぬぐいとり,transfer mediumに拡散,希釈後,以前より用いているスパイラルプレート法にて,総細菌,口腔レンサ球菌,ブドウ球菌,カンジダ,緑膿菌をカウントした. 唾液接触角は口腔底に溜まった唾液をマイクロピペットにて5μl採取し,市販の厚さ5mmのアクリル板上に滴下した.この像をデジタルカメラで撮影し,接触角を計測した.唾液中の蛋白量,ムチン量,ブドウ球菌の抗体価を評価する唾液は被験者から安静時唾液を採取し,遠心処理した上清を凍結保管したものを使用した.蛋白質量はBio-Rad社のプロテインアッセイキットにより計測し,ムチン量はウシ顎下腺ムチンを標準とし,フェノール硫酸法により求めた.ブドウ球菌の抗体価はELISA法により計測した. 結果,若年者群に比較して高齢者群の方が細菌数が多く,ブドウ球菌,カンジダ,緑膿菌が多く検出された.また,ブドウ球菌の抗体価は個人差が大きかったが,接触角,ムチン量,蛋白質量は高齢者群のほうが多い傾向にあり,粘度が高く,口腔,咽頭に停滞しやすい性状にあることが示唆された.以上のことから,高齢者では口腔,咽頭に微生物が停滞しやすく,誤嚥性肺炎などの口腔内微生物による感染を起こしやすいのではないかと考えられ,これらの感染症を予防するためより徹底した口腔ケアが必要であると思われる.
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