研究概要 |
顎口腔系の健全性と正常な機能の維持が高齢者のQOLを確保するための基本的因子であることの報告が多くなされている.さらに,義歯補綴治療を行なう場合においても,義歯装着による効果とその限界を患者に対して十分に説明するインフォームド・コンセントの必要性が強調されている.これらのことから,義歯装着者の咀嚼機能に関する客観的な評価基準および評価方法の確立が不可欠である. 全部床義歯装着者における咀嚼機能は,術者が装着する義歯の安定性や適合性などの力学的因子のみばかりではなく,患者自身の有する神経筋制御能力や顎堤形態などの生物学的因子に大きく影響されると考えられる.そこで,本研究においては,両因子を加味した客観的な咀嚼機能評価法を確立するために,適正な全部床義歯が装着されている無歯顎患者を被験者として篩分法による咀嚼効率,デンタルプレスケールによる最大咬合力,顎堤レプリカ法による義歯支持基盤(義歯支持基盤面積,義歯支持基盤体積,義歯支持基盤平均高さ)の測定を行った. 本研究結果から生物学的因子である最大咬合力,その力を支持する義歯支持基盤(義歯支持基盤面積,義歯支持基盤体積,義歯支持基盤平均高さ)と咀嚼効率との間に統計学的に有意な相関が認められた.とくに,義歯支持基盤面積と咀嚼効率の相関係数が最も高い値を示し,義歯支持基盤面積の確保が,患者の有する潜在的咀嚼能力を引き出すために重要であることが示唆された.また,咀嚼効率を従属変数,最大咬合力,義歯支持基盤面積,義歯支持基盤体積,義歯支持基盤平均高さを独立変数とした重回帰方程式を提示した.この方程式は,患者の患者自身の有する生物学的因子から,適正な義歯を装着した場合に発現が予想される咀嚼効率を算出するものであり,義歯補綴におけるインフォームド・コンセントに有用であると考える.
|