研究概要 |
高齢社会の中にあって,生きがいや知的精神的能力の減退の予防に咀嚼が有効であり,食事を能率的にかつ楽しく行える義歯を装着することが重視されている.本研究では,介護を要する高齢の義歯装着者における咀嚼能力の実態を調査することを目的とした. 被験者は盛岡市の特別養護老人ホームに入居し,介護を必要とする全部床義歯装着者30名(平均年齢83.2歳)とした.対照として本学附属病院に通院する全部床義歯装着者25名(平均年齢63.9歳)を選択した咀嚼能力の評価には,義歯装着者の咀嚼能力を客観的,定量的に評価する試験食品として開発した,蛍光体を含有するビスケットを用いた.ビスケットを30回咀嚼後,口腔内に分泌された唾液とともにビーカーに吐き出させ,精製水20mlにて洗口させて回収した.その上澄み液を試料とし,アルゴンレーザーを用いて蛍光強度を測定した.併せて咬合力と咬合接触面積をデンタルプレスケールシステムを用いて測定した.その結果,要介護者における蛍光強度は2.9±2.2%であり,対照とした被験者の蛍光強度17.2±14.6%と比較し顕著に低い値を示した.また,要介護者の咬合力は,31.6±29.0N,咬合接触面積0.6±0.6mm^2と対照の咬合力127.4±67.0N,咬合接触面積2.4±1.3mm^2に比較し低い値を示した.蛍光強度と咬合力および咬合接触面積とには相関が認められた. 以上の結果より,特別養護老人ホームに入居する要介護者は,通院可能な高齢者に比較し咬合力が低く,ビスケット咀嚼の能力が低下していることが明らかとなった.今回の調査では咀嚼と全身状態との関連まで言及することはできないが,咀嚼能力が身体的能力に関与している可能性のあることが示唆された.
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