研究概要 |
咀嚼時の下顎運動や咀嚼筋活動は,食品の性状や大きさなどによって影響を受ける.これには,歯根膜感覚による閉口筋へのポジティブフィードバックの関与が考えられる.しかし,歯根膜感覚を欠如する総義歯装着者やインプラント義歯装着者においても,食品の硬さに対応した咀嚼筋活動が行われているとの報告もある.そのため,インプラント義歯装着者の下顎運動や筋活動に関しての研究は,多数行われているにも関わらず,食品の硬さに対応した下顎運動ならびに筋活動が行われているかどうかについては明らかにされていない. そこで今回われわれは,インプラント義歯装着者に硬さの異なる3種類のガムを咀喉させ,この時の下顎運動および筋電図を記録・分析することにより,インプラント義歯装着者においても食品の硬さに対応した咀嚼運動ならびに咀嚼筋活動の調節が行われているかどうかについて検討を行った. ガムの試作はロッテ中央研究所に依頼して製作した.筋電図の記録には日本光電社製筋電計MR6000を用い,下顎運動の記録にはマンディブラーキネジオグラフK5ARを用い,それぞれテアック社製データレコーダーMR60に収録し、収録した筋電位6チャンネル並びに下顎運動4チャンネルをADコンバーターにてAD変換後,今回購入のパーソナルコンピュータに取り込み,当大学で製作した筋電図並びに下顎運動分析ソフトにより解析を行う.解析したデータから,正常有歯顎者と同じく,インプラント義歯装着者においてもガム硬さに対応した咀嚼筋活動並びに下顎運動が行われているかについて検討する.結果、 インプラント義歯装着者では,正常者と同じようにガム硬さに対応して変化する下顎運動や筋活動のパラメータもあったが,ガム硬さの影響が正常者程顕著でなく,咀嚼運動経路が狭く,ゆっくりと咀嚼し,食品を噛みしめる時間が長く,筋活動量も大きい傾向が示された.また,各パラメーターの変異係数も正常者よりも増加していることから,咀嚼運動の調節能が正常者より劣っていることが示唆された.
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