研究概要 |
顎関節は,咀嚼筋の収縮と咬合荷重により恒常的に機械的負荷を受けている.したがって,咬合異常は顎関節への過剰な負荷を引き起こし,関節の形態異常や機能障害の発症に大きく関与していると考えられてきた.本研究の目的は,実験的に咬合変化を惹起させたときの顎関節腔内圧の変動を観察し,顎関節軟骨層における組織変化との関連について検討することである。 実験動物は,成熟期のビーグル犬を用いた。咬合変化を付与した実験群として,(1)下顎臼歯を抜歯した咬合低下群,(2)咬合床を装着した咬合挙上群,(3)骨延長器による下顎骨延長群の3群を設けた.対照群は無処置とした。顎関節腔内圧の測定法は、全身麻酔下にカテーテルを上関節腔内に留置し,圧トランスジュサーを接続し,観血的動脈血圧測定システムを用いて,顎安静時,術者による徒手的な最大開口時,噛みしめ時を想定した顎間固定時の波形を記録した。各群の顎関節腔内圧を1カ月,3カ月,6カ月と経時的に測定した.実験終了後,4%パラホルムアルデヒドを用いて潅流固定し,左右顎関節部を採取し,パラフィン包埋し,組織学的および免疫組織化学的に観察した. その結果、対照群の顎関節腔内圧は,顎安静時を基準とした際,徒手的開口に応じて陰圧を示し,徒手力を開放すると顎安静時の内圧に復位し,顎間固定により持続的な陽圧を示した。顎間固定時の内圧は,対照群よりも咬合低下群が高く,咬合挙上群が低く,下顎骨延長群が高くなる傾向を示した。組織学的には,咬合低下群と下顎骨延長群で,顎関節軟骨層における厚径の減少が観察され,咬合あるいは咀嚼時における顎関節腔内圧の上昇との関連が推測された.しかし,軟骨の細胞外基質成分に対する抗体を用いた免疫染色では,非特異的反応が強く,軟骨基質成分への影響について明らかにすることはできなかった。
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