研究概要 |
口腔扁平上皮癌の浸潤・転移に対する化学療法の効果を明らかにする目的で,高浸潤,高転移性質のヒト口腔扁平上皮癌細胞株であるOSC-19細胞をヌードマウスの口腔内に正所性に移植する浸潤・転移モデルを用いて実験的に検討した.第1実験としてOSC-19細胞を口底に移植した後に浸潤と転移が,一連に推移する状態において,シスプラチン(cisplatin,CDDP)または硫酸ペプロマイシン(peplomycin sulfate,PEP)を移植後7日目または14日目に腹腔内に単独投与し,各抗癌剤ならびに各投与時期の違いによる化学療法効果を比較検討した。その結果,対照群の口底腫瘍の増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen,PCNA)陽性細胞率は33.7%であったのに対して,抗癌剤投与群では25.4-28.4%と有意に低下し(P<0.05),化学療法による増殖抑制効果が認められた.また,対照群の口底腫瘍は典型的な4C型の浸潤様式を呈していたが,抗癌剤投与群の残存腫瘍の浸潤様式は腫瘍胞巣の変性とともに3型にとどもまるものが72.7〜81.8%と多く抗癌剤投与によって浸潤様式の低下(down grading)といい得る所見が示された.さらに対象群の頚頭リンパ節転移形成率は90.9%であったのに対して抗癌剤の7日目投与群ではリンパ節転移形成率は45.5%と有意に低下し(p<0.05),また転移リンパ節内での腫瘍進展度も抑制されていた(p<0.01).第2実験ではOSC-19細胞を舌に移植し,その後に移植腫瘍を切除し転移のみが進行する状態において,移植腫瘍切除のみを施行するS単独群と術前化学療法を移植腫瘍切除に併用するC+S群の頚部リンパ節転移形成率の比較検討を行った.その結果,S単独群の頚リンパ節転移形成率は81.8%であったのに対して,C+S群の転移形成率は18.1%であり,腫瘍切除術に術前化学療法を併用することによって頚部リンパ節への転移が著しく抑制されていた(p<0.01)以上の結果より,移植腫瘍増殖初期で転移巣末形成期における化学療法が高浸潤,高転移性口腔扁平上波癌の浸潤・転移を抑制することが示された.
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