研究概要 |
c-fosは癌遺伝子の一つであり,細胞増殖や分化の制御に関わっている.また中枢の神経細胞においては,疼痛等様々な末梢刺激に応答し発現する.このことからc-fosは短期の細胞性応答を長期の細胞性応答に転換する際に働き,学習や記憶に関与すると考えられている. 現在までわれわれはラットを用い,行動実験で実際に確認したX線照射という悪心誘発性刺激に対するc-Fosタンパクの延髄弧束核・最後野での発現を免疫組織化学的手法を用いて検索し,刺激の応答部や求心系の伝達経路を明らかにしてきた.求心路検索の次段階として,実際にc-fosが行動変化に関与していること,っまり<悪心誘発刺激投与-中枢での応答-悪心発現-悪心誘発刺激からの回避行動>という一連の経路において,c-fosが関与していることの証明を,今回の実験目的とした. 平成10年度はc-fosアンチセンス,センス,生理食塩水をそれぞれ体内埋め込み式の浸透圧ポンプを用い第4脳室中へ投与し,pica発現の差をみた.picaとは毒物投与や動揺刺激がラットにカオリンのような栄養のない物質を摂取させる反応をいい,今回の刺激は催吐剤である塩化リチウムを用いた.例数が少なく有意差を検定するまで至らなかったが,塩化リチウム投与前後で比較すると3群ともカオリン摂取量は増加しておりpicaの発現傾向がみられた.塩化リチウム投与後のカオリン摂取量を3群間で比較すると,アンチセンス,生理食塩水,センスの順で少なく,c-fosアンチセンスはpica発現を抑制する傾向がみられた.第4脳室底に位置する最後野はchemoreceptive trigger zoneと呼ばれ,血液中の嘔吐物質に反応し,悪心・嘔吐発現に関与するといわれている.以上より悪心の情報伝達に最後野中のc-fos発現が直接関与していることが示唆された.
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