研究概要 |
歯髄の免疫防御機構の獲得過程を明らかにする目的で、近年、歯髄の初期免疫応答に重要と注目されている抗原提示細胞に着目し、ラット臼歯の発生・萌出過程における歯髄免疫担当細胞の動態を検討した。試料は生後1,4,7,14,20,30,40,60,80日の上顎第1臼歯を用い、抗原提示細胞のマーカーとしてクラスII MHC分子を認識するOX6モノクロナール抗体、マクロファージを含む単球系細胞のマーカーとしてEDl抗体による免疫染色を施し、光線顕微鏡にて観察した。その結果、次のような所見を得た。(1)生後まもなくの歯髄には、EDl,OX6陽性細胞は殆どみられなかったが、象牙質形成が既に開始している生後7日には、多数のEDl陽性細胞が歯髄内に観察され、象牙芽細胞層内にも毛細血管に付随して陽性細胞が位置していた。(2)OX6陽性細胞数は生後14日までは非常に少なく、萌出(生後20日)後に徐々に増加し、象牙芽細胞層にも位置するようになった。また、EDl陽性細胞が歯髄内全体にほぼ均等に散在しているのに対し、OX6陽性細胞は髄床底部から徐々に増加していく傾向を示した。(3)EDl,OX6の2重染色により、EDl/OX6共に陽性を示す細胞が徐々に増加していく傾向がみられた。(4)エナメル器および歯根膜では比較的早期からEDlおよびOX6陽性細胞数に大きな差はみられなかった。 以上より、免疫担当細胞のうち単球系細胞が萌出前の歯髄に多数配置しているのに対し、抗原提示細胞は歯の萌出後に徐々に増加することが明らかとなった。このことより、歯の萌出に伴う外界からの刺激が、歯髄の免疫担当細胞の抗原提示能獲得、すなわち歯髄の免疫機能の成熟に関与することが示唆された。
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