研究概要 |
1. 今年度に行った研究によって得られた知見 実験には,13週齢のウィスター系雄性ラットの上顎右側第一臼歯を初期荷重約10gで近心,または遠心方向に移動を行い,初期荷重約10gの力が作用するように調整し,12,24,48,72時間,1週間経過したものを用いた. 非脱灰標本を用いた歯槽骨表層の形態観察を行う上で,顎骨より歯と歯根膜を含む有機成分を除去し,第一臼歯の遠心2根の歯槽窩中央で頬舌的に割断した.割断試料を走査電子顕微鏡を用い観察した結果,対照群で近心側は骨添加,遠心側は骨吸収が三次元的に観察され,近心移動では,吸収と添加が反転し,近心側が骨吸収,遠心側が骨添加を示した.さらに遠心移動では,吸収,添加側が引き続き持続的にみられる様相が確認された. この結果をふまえた上で,X線マイクロアナライザーを用いた分析電顕的観察を行い,骨の深部における含有Ca,P元素の濃度分布を観察した.試料を非脱灰の状態で第一臼歯遠心根のほぼ中央部で半切し,エネルギー分散型分光器(Kevex7000型)により線分析と点分析を用いて定性分析を行った.含有Ca,P元素の濃度分布については波長分散型分光器を用いてcontour mapをそれぞれ作成した.これにより近心移動では,既存の骨と新生骨が吸収と添加が移動後に反転する様相が確認され,遠心移動では,近心側で柱状の新生骨の存在が確認され,Ca,Pの分布から石灰化の様相が明確に観察された.これは歯根膜線維の伸展が影響を及ぼしているものと思われた. 2. 今後の研究の展開 走査電子顕微鏡を用い三次元的に観察した結果から,同一実験系を用いて,透過型電子顕微鏡による観察を行い,細胞レベルでの骨添加,吸収系細胞の関連性について検討を行う必要があるものと思われた.
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