研究概要 |
霊長類の補体制御因子MCP(membranecofactorprotein,CD46)は細胞外領域にSCRと呼ばれる構造単位を4個とO結合型糖鎖が付加したSer-Thr(ST^A,ST^B,ST^C)に富むドメインを有し,SCRを介して補体制御活性のみならず麻疹ウイルス(MV)に対するレセプター活性を示す。これまでの研究で,下等な霊長類に属するマーモセット由来の細胞株(B95a)の高いMV感受性にはMCPだけが関与しているのではなく,その他の補助因子も必要である可能性を見出している。本研究の目的は,MCP以外の未知因子の実体を解明する手がかりを得ることにある。 平成9年度から2年間にわたり得られた研究成果を要約すると, 1) これまでに単離したB95a-MCPはSTがBタイプのアイソフォーム(ST^B体)であったため,強いMVレセプター活性を示す他のMCP分子種の存在を想定し,B95a細胞のcDNAライブラリーを再探索したところ,新たにST^C体を得ることに成功した。このST^C体を発現するCHO細胞株を樹立してMV感染について検討したところ,本邦でMVワクチンとして用いられているCAM株にはヒトMCPを発現するCHO細胞と同程度の感染性を示すが,MV野生株であるNagahata株には感染性を全く示さないことを明らかにした。 2) 最近提唱されたヒトMCP上のMV結合部位を構成するアミノ酸残基群をB95a-MCPのST^C体に置換導入した変異体でも,Nagahata株に対するレセプターとしての機能は回復しないことを明らかにした。 以上の知見は,B95a-MCPはST^C体ではCAM株に対するMVレセプターとして機能するが,ST^C体であってもその分子上にNagahata株との相互作用部位が存在しないため,MVレセプターとして機能し得ないことを示唆する。これは,B95a細胞におけるNagahata株の感染には,MCP以外の未知因子が関与すること,加えてこの因子がMCPの補助因子として働くのではなく,単独でNagahata株の感染レセプターとして機能する可能性を強く示唆するものであった。
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