研究概要 |
当研究課題では、新規細胞死抑制物質DIDSについて、1)その細胞死抑制の分子機構を明らかにし,2)神経脱落を伴う疾患モデルに有効であるかを検討した。 1) DIDSの細胞死抑制の作用点は,すでにcaspase活性化の前段階に存在することが示されていたので、特にミトコンドリアに対する影響に注目して検討した。細胞死誘導には以下の様々な刺激を用いた。 高カリウム下、あるいは、インシュリン共存下培養し、通常の培養液に移行 ミトコンドリア脱共役剤CCCP スタウロスポリン、過酸化水素、グルタミン酸による刺激 細胞死の進行に伴って、ミトコンドリア膜電位の低下が観察された。DIDSの共存によって細胞死もミトコンドリア膜電位の低下も、ともに抑制された。しかしながら、ミトコンドリア膜電位の低下はcaspase活性化に先行しないこと、ならびに、CCCPによって誘導される細胞死では、ミトコンドリア膜電位が平衡化しても、数時間を経ないとcaspases活性化が観察されないこと、この間に細胞を培養液で洗うと、細胞死に至らないことなどから、ミトコンドリア膜電位の低下はこれらの刺激による細胞死の進行において寄与が小さいと結論づけた。さらに、CCCPによってミトコンドリア膜電位が平衡化した後であっても、DIDSは、細胞死を抑制した。したがって、DIDSはミトコンドリア膜電位の維持によって細胞死進行を抑制するのではなく、DIDSによって細胞死が抑制された結果、ミトコンドリア膜電位が維持されたのである。 2) スナネズミを用いた一過性脳虚血モデルに対するDIDSの神経細胞保護効果を検討した。虚血負荷に先立って、DIDSの全身投与を行ったが、海馬CAl野の脱落には影響がみられなかった。DIDSの中枢移行性等の問題が考えられるので、DIDSの投与経路や虚血モデルについて、当研究課題終了後も引き続き検討を行っている。
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