研究概要 |
ヘム分解の律速酵素であるヘムオキシゲナーゼ(HO)の二つの分子種の内,HO-1は酸化的ストレスに対する生体側応答の重要な指標とも考えられている.我々は,グルタチオン低下剤であるフォロンがHO-1遺伝子発現を引き起こすに際して転写因子であるAP-1のDNA結合活性の上昇を介すること、またこの活性化には,肝臓のグルタチオン減少が深く関与している知見を得ていた。平成9年度には,フォロンによるグルタチオン減少が,Jun N-terminal Kinase(JNK)活性化を引き起こし,続いてAP-1結合活性上昇,最終的にHO-1遺伝子転写活性上昇へと収束することを明らかにした.急激なグルタチオン減少の結果生じた酸化的ストレスが何らかの内因性ストレス関連因子を誘発させ,その結果JNK活性化など一連の情報伝達が活性化されている可能性も否定できない.そこでストレス性のサイトカインであるIL-1に着目し,グルタチオン減少により生ずるHO-1誘導にIL-1が関与しているかノックアウトマウスを用いて検討した.IL-1α,βノックアウトマウスにフォロンを投与しその4時間後に肝臓、腎臓、肺でのHO-1遺伝子発現を検討したところ、いずれの臓器においてもコントロールマウスとほぼ同程度のHO-1遺伝子発現が認められた。この事は、フォロンによるHO-1遺伝子発現誘導作用には、少なくともIL-1は関与していないことが示唆された。ところで、エンドトキシンlipopolysaccharide(LPS)は、マクロファージ活性化やサイトカイン産生など様々な生理活性をもつ。LPSによるHO-1誘導は、LPSにより産生されたIL-1が引き金となって生じると報告されている。そこで、IL-1ノックアウトマウスを用いてLPSによる効果を検討したところHO-1遺伝子発現は対照動物と同様に認められ、必ずしもIL-1のみを介したpathwayだけがHO-1遺伝子発現に働いているわけではないことが明らかになった。
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