研究概要 |
1. 目的:慢性呼吸器疾患や呼吸器感染症、特に肺炎が発症しやすい患者に対して、効果的な予防法や進展防止法を看護職の立場から開発することが本研究の目的である。本年度は以下の研究を行なった。 2. 成績 ● 痴呆患者における肺炎と日常生活動作能力との関連性…痴呆患者において日常生活動作能力(Activities of Daily Living;以下ADLとする)が呼吸器感染症感染の発症に関連しているか否かを解明するために,これらの,患者における肺炎および発熱の発症とADLの関連性を検索した。高齢の入院患者635例を対象に面接と観察による調査を行った。脳血管障害患者が490例(77%),痴呆患者が482例(75%)であった。肺炎の発症は痴呆患者では約20%であるのに対して,非痴呆患者では約10%と少なく,痴呆患者において肺炎発症率が高いことが明らかになった。痴呆患者を肺炎発症群,発熱群,非感染群に分類すると,日常生活動作能力は,非感染群に比し肺炎発症群と発熱群で低いことが明らかになった。 感染群の中でも肺炎患者における日常生活動作能力の低下は顕著で,特に活動意欲や活動能力の低下が著しく,就床患者が多いことが明らかになった。これらの成績は,痴呆患者においては日常生活動作能力の低下が肺炎の発症の要因として働いていることを示唆している。さらに慢性呼吸器疾患の既往が重要であることも確認された。 ● 嚥下障害患者に対する口腔ケアの検討…嚥下障害がある患者に起こりやすい嚥下性肺炎の発症を予防する方法として給吸ブラシによる口腔ケアを検討した。給吸ブラシ910(ライオン社製)は電動ブラシに給水吸引機能が装備されている口腔ケア器具である。この給吸ブラシによる口腔ケアを,脳梗塞のために嚥下障害があり,経鼻経管栄養を受けている1症例と食餌を経口的に摂取中の1症例を対象とし,3ヶ月間就寝前に実施し,その効果を口腔内所見の変化,呼吸器感染症の発生状況,細菌学的検査およびADLへの影響から検索した。給吸ブラシにより歯牙の清掃と咽頭部および舌背のケアを介助者が一人で同時に行うことが可能であった。給水しながら吸引するために,誤嚥の心配がなく,患者自身がむせないためブラッシングに対する不安や苦痛が軽減されブラッシングに協力的になり,患者が自分でブラッシングすることができ,ADLの向上になった。さらに歯肉の発赤や腫脹,出血が軽減し,総細菌数,ブドウ球菌,カンジダ数も減少したが,緑膿菌は減少を示さなかった。今後は洗浄剤等についても検討していく必要があると考えられた。
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