本研究の終了年度にあたる平成10年度には、これまで圧倒的に女性教員が大勢を占めている教科である家庭科教育に関わっている男性に視点を当てて半構造化されたライフヒストリー・インタビューを実施した。録音の後の文章化されたインタビュー結果をもとに、家庭科教育に対する意識を中心に分析することを通して、彼らの<家庭科に関わる男性>としての自己形成過程を探った。結果は以下のとおりである。 1. 公立高等学校で家庭科を兼担する3名の男性教師に対するインタビューから、彼らが本来専門としていた教科と比較して家庭科の特徴として指摘したことは、「自分の生き方を示せる教科」ということであった。教師たちにとって、<家庭科を教える>ということは、ひとりの男性として、教師として、そして家庭生活を営む生活者としての<自分>を生徒の前に示すことに他ならない。このような教師のスタンスは、教室言語としての教師と生徒の<教え-学び>の関係とは異なり、生徒と共に語り合える位置に立って自らの生き方を<語る>というものであった。またそのような授業のあり方は、教師自身にとてもカタルシスをもたらす側面があった。 2. タビューから、彼らが家庭科を専攻するに至った動機の多様性が示唆された。3名とも平成元年の学習指導要領改訂以前に高等学校を卒業しているために、家庭科の学習経験は小学校の記憶しか持っていない。しかしかえってそのことにより、家庭科を専攻する際に新鮮な印象を抱いたり、専門的な学習をすることで家庭科に深い興味や関心を抱くようになったことが顕著であった。いずれの学生も、家庭科を大学で専攻していなかったら、家庭生活のことを深く考えることなど無かっただろうと述べ、特に、ジェンターの概念を知ったことが、彼ら自身の生き方や生活感情に大きな影響を与えたことを指摘していた。
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