研究概要 |
食物アレルギー発症機序の初期的段階において、食物性抗原(アレルゲン)のような高分子物質が消化管の上皮層を通過するかどうかについて詳しく解明する目的で、本研究を行っている。平成9年度はラットの乳飲期、離乳期、成熟期の空腸および回腸において、高分子のトレーサーが消化管の管腔側から粘膜上皮層を通過し、粘膜固有層内へ侵入するかどうかについて細胞化学的、超微形態学的に検索を行った。平成10年度は、平成9年度の成果を踏まえ、さらに種々の高分子物質のトレーサーを用いて、粘膜固有層への侵入に差異が認められるかどうかについて検討を行った。 乳飲期ラットの小腸管腔内に高分子物質のトレーサーとして、horseradish peroxidase(HRP)を投与し、細胞化学的、超微形態学的検索を行った結果、HRPは空腸ではエンドサイトーシスによって吸収上皮細胞内へ取り込まれ、ライソゾームで細胞内消化を受ける経路と、ライソゾームを経由せず、細胞側壁へ移動し、細胞間隙から粘膜固有層内へ入る経路が示唆された。管腔内に陽極化したトレーサー(cationizedferritin,cationized gold)、HRP標識を行ったレクチン(SBA-HRP,WGA-HRP,ConA-HRP,PNA-HRP,UEAI-HRP,DAB-HRP,PHA-E_4-HRP,LCA-HRP,RCA_<120>-HRP)またはHRPで標識した食物性抗原(ovalbumin-HRP,ovomucoid-HRP)を投与した結果、トレーサーの種類によって、空腸吸収上皮細胞内への取り込みの程度に差異が認められた。しかし、同時期の回腸では、いずれの高分子物質のトレーサーも細胞内へ大量に吸収されるが、ジャイアントライソゾーム内に運ばれて細胞内消化を受け、細胞間隙へは輸送されないため、高分子の形での粘膜固有層への侵入は認められなかった。このことから、空腸と回腸では、高分子物質の輸送経路が異なることが示唆された。また、空腸において、高分子物質の種類によって、粘膜固有層内への侵入の程度には差異があり、食物アレルギー発症機序の初期的段階を引き起こし易い高分子物質とそうでない高分子物質があることが示唆された。
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