研究概要 |
本研究の目的は,傾斜路における走動作の特徴をバイオメカニクス的観点から明らかにすることであった.本研究をまとめると次のようになる.(1)3次元動作計測システム:DLTアルゴリズムと遺伝的アルゴリズムを併用した動作計測のためのキャリプレーション(較正)方法を提案した.提案した方法による計測精度を検討したところ,従来の較正方法と同等の計測精度が得られること,さらに従来の較正方法では計測誤差が大きくなるような場合(例えば傾斜路や不整地)では従来の較正方法より精度よく動作を計測できることが確認できた.(2)上り坂および下り坂における走動作の分析:斜度2.9%の上り坂および下り坂を走行させたときの走動作をキネティクス的に分析し,平地での走動作(平地走)と比較した.その結果,上り坂においては,重心を高く上げるために支持期後半に股関節の伸展筋群および足関節の底屈筋群が平地走に比べて大きな正のパワーを発揮していた.一方下り坂においては,支持期中盤の股関節の負のトルクパワーが平地走に比べて大きく,また膝関節と足関節のトルクパワーには平地走と大きな差がみられなかったことから,高い位置から落下してくることにより増加する身体の力学的エネルギーを股関節の屈曲筋群が吸収していたと考えられる.(3)左右に傾斜した走路における走動作の分析:左右方向に傾斜した走路(斜度15%)における走動作を分析した結果,股関節の内外転方向の関節トルクに差異が見られ,斜面下側の脚においては股関節外転トルクが,斜面上側の脚においては股関節内転トルクが平地走に比べて大きかった.以上のことから,傾斜路における走動作を平地での走動作と比較することにより,傾斜路においては股関節まわりの筋力の重要性が示唆された.
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