研究概要 |
廃用により低下した筋機能の回復に及ぼす運動の効果について,若年及び老年ラットを用いて検討した.4-5ヵ月ならびに20-21ヵ月齢のF344系雌ラットを,対照群,懸垂群,懸垂回復群,懸垂運動回復群に分け,1群あたり5〜7匹の動物を割り当てた.懸垂運動回復群には,懸垂解除後3週間にわたって,等尺性抵抗運動を1日1回,30分間,週6日負荷した.3週間の懸垂によりヒラメ筋の最大筋力は70〜75%低下した.懸垂解除後3週間の通常飼育により最大筋力の改善がみられたが,対照レベルにまで回復しなかった(対照群の約80%).懸垂による筋力低下や懸垂解除後の筋力回復による加齢による差違および運動負荷の影響は認められなかった.これらの張力変化は筋原線維蛋白含量からも裏付けられた.若年期では,懸垂により単収縮の時間経過の短縮がみられたが,懸垂解除後3週間で対照レベルにまで回復した.一方,老年期では若年期と同様,懸垂により短収縮の時間経過の短縮がみられたが,その程度は若年期に比べわずかであり,また,懸垂解除後の回復にも遅延がみられた.老齢期における懸垂解除後の回復期間中の等尺性抵抗運動は,短収縮の時間経過の回復を促進した.単収縮の時間経過の変化に対する筋線維組成の関与は明らかでなかった.回復期間中の運動は懸垂ヒラメ筋では,筋横断面積あたりの細胞間隙の増加やoore-like lesion,ragged-red fiberなどの病理学的異常線維の出現を認めた.懸垂解除3週間目のヒラメ筋では,中心核線維や分裂線維がみられ,回復期間における筋の損傷,再生を示唆する結果が観察された.これらの懸垂ならびに懸垂解除後の筋病理学的特徴は両加齢段階で同様であった.極度の廃用状態により,遅筋のヒラメ筋では,筋線維の萎縮だけでなく,変性が生じ,形態的萎縮を上回る筋力低下が生じること,廃用状態解除後の筋の回復に関しては,非荷重から再荷重に伴う筋損傷が生じ,筋機能の回復を遅延させる原因となりうること,回復期間における運動負荷は,廃用により低下した筋力の回復を促進することはできなかったが,収縮・弛緩速度などの筋機能の回復を促進することが示唆された.
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