研究概要 |
本研究の目的は、1979年〜1983年にブラジル北東部(ノルデステ)を襲った歴史的な大干魃を主な事例に、干魃の時間・空間的拡大過程の復元とその地域差に配慮した適切な干魃対策のあり方を検討することであった。降水量分布や変動性やその地域差、干魃非常事態地域の時間・空間的拡大過程などを検討した昨年度の実績を踏まえ、今年度は1979年〜1983年の大干ばつに際してブラジル政府が実施した緊急対策事業(Programas de Emergencia)や、その補完事業である水資源プログラム(PROHIDRO)、人工降雨計画(MODART)などの具体的な実施内容とその問題点について、時間・空間的観点から分析を行った。 1979年から5年間も続いたこの大干ばつにより、農作物の収穫量は大幅に減少してノルデステの内陸農村は壊滅的な状況を呈した。干ばつ直前の1978年と比較すると、トウモロコシやフェジョンマメの収穫量は1979年がそれぞれ2.9%・16.9%、1980年が28.8%・45.0%、1981年が36.0%・66.0%の減少であった。また、商品作物のワタやタバコの収穫量も年変動はあるものの約3〜6割の減少となり、農村の疲弊は顕著であった。 こうした中、ブラジル政府は緊急対策事業を実施して、食糧や水の配給に加え、貯水池やダムの建設、井戸の掘削、水路や導水管の敷設、道路・住宅の建設などを推進し、被災農村における雇用労働力の創出に力を注いだ。本事業による1979年〜1984年の雇用労働力は合計4,571,380人に達した。こうして、大干ばつであったにも関わらず、かつて経験した巨大な餓死者や干ばつ難民の創出を抑制することができた。しかし、同時に情報不足による事業の遅れやその地域・社会階層的不平等などの問題も指摘できる。また、事業内容が過度に対症療法的で、干ばつの背後に潜む貧困や土地所有問題への積極的な取り組みが認められないところに限界があるといえる。
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