本研究は、高齢化が進むわが国において、何らかの障害を持つのが常態である高齢者の生活・雇用機会を提供するため、身障者と健常者が共に働く大分県別府市のホンダ太陽株式会社を対象として、個々人の能カの異質性を前提とした就業・居住の物的・社会的環境整備のあり方を検討した。平成9年度の同社を対象としたヒアリング調査を通じての企業組織による環境整備の分析に続いて、今年度は、時間地理学における活動日誌法により、同社の身障者、健常者計42名を対象に、土日4日、平日4日の計8日間における外出時の空間的移動を伴う全活動のデータを収集し、生活活動空間の分析により、時空間制約について検討した。得られた結果は次の通りである。 1) 自宅および職場からの距離帯別活動割合からみた生活活動空間には、1km以内、3〜4km、7〜10kmをピークとする基本構造が確認された。 2) 生活活動空間は年齢及び就業工場による違いが大きく、若年齢(20〜39歳)の方が高年齢(40〜59歳)よりも広域的であり、別府工場よりも郊外に位置する日出工場の就業者の方が広域的であるが、身障者と健常者の間には生活活動空間の広がりとパターンに大きな違いはなく、量的な側面での時空間制約は確認されなかった。 3) ただし、身障者・健常者を年齢別にみると、若年齢では健常者より身障者の方が平均距離が長いが、高年齢になると逆になり、加齢による制約が身障者の方に大きいことが確認された。 4) 健常者より身障者の方が距離帯別活動割合の起伏が大きい。これは身障者の活動が一定の距離帯の中では特定の場所に集中しがちであり、質的な側面での時空間制約があることを示唆している。 5) 以上のことから、身障者の日常生活を空間的に限定的なものとしてとらえるのは適当でなく、条件が整えば身障者も十分健常者と同じ空間的広がりの中で生活できるという視点が必要であり、その上で、そうした日常生活を支える質的な時空間制約の改善が望まれるであろう。
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