研究概要 |
本研究は,山地源流域における降雨流出および水質形成機構に関して,多くの流域に対して適用可能な経験則を得ることを最終目的としている.本研究ではとくに流域の場の条件に注目し,降雨流出および水質形成過程に及ぼす場の条件の影響を明らかにすることによって,上記の研究目的を達成しようと考えている.研究対象として,大起伏山地である長野県天竜川支流の小渋川源流および与田切川源流を選定した.小渋川源流域は中古生層の堆積岩からなり,与田切川源流域は花崗岩からなる. 本年度はおもに,これまでに得られたデータの解析を行なった.その結果,降雨流出過程に伴う水の水素・酸素安定同位体比の変動データから,小渋川流域における地中水の平均滞留時間は,与田切川流域におけるそれに比較し,より長いことが示唆された.また,小渋川流域における河川流出水の大部分が,降雨時・無降雨時に関わらず,基盤岩中を浸透した地中水成分によって形成されていることが,水の無機イオン濃度データから示された.一方,与田切川流域における河川流出水は,斜面土層中を比較的速やかに浸透してきた地中水成分と,基盤岩中を浸透した地中水成分の混合によって形成されていることが示された.その成分比は,季節によって異なり,流量の多い時期ほど,河川流出水中に占める基盤岩浸透水の割合が高いことが示唆された.以上,水の質的な情報から得られた結論は,河川流出特性,地中水の挙動等の物理的なデータから示唆される結論とも調和的であった. 本研究の結果,大起伏斜面からなる山地流域では,降雨流出および水質形成過程において基盤岩中を浸透する地中水が重要な役割を占めていることが示された.従来,降雨流出に関する研究では,土層中の地中水の挙動が重要視され,基盤岩中の地中水はほとんど無視されていた.本研究の結果は,山地流域の降雨流出および水質形成機構研究に新たな視点を提供するものである.
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