本研究の目的は、次の課題A及びBに答えることであった。 課題A:中学1年生は、証明の素地として何を持ち、証明をどの程度構成できるのか。 課題B:中学1年生が証明を構成できるために、どのような教材と指導が必要になるか。 課題Aに対する答えは、次のとおりである。教授実験の被験者である公立中学1年生3名(数学の成績上位・中位・下位群から各1名選出)は、証明の素地として、主に帰納的な推論と日常的な言語を有していた。また、証明の4レベル(証明の内容・表現・心理を軸として考案)で生徒の活動を評価した結果、上位群選出の生徒は、第2レベルの証明を構成でき、中位・下位群選出の生徒は第1レベルの証明に留まっていた。(なお、第4レベルが中学校数学で意図されている証明(「論証」)に該当する。) 課題Bに対する答えは、次のとおりである。教授実験において被験者である3名の生徒に対して次の場面を設定した。活動1:代数の命題を数値計算で確かめる。活動2:同じ命題を主に具体物の操作によって証明する。活動3:同じ命題を主に日常的な言語によって証明する。活動4:同じ命題を論証の言語に翻訳する。特に、活動環境を次のように整備した。活動2及び3では、ホワイトボード上に多数のマグネットを配置し、生徒の見方や考え方をマジックで書きこめるようにした。また、活動4では、具体物の操作過程を図示し、代数の論証言語への翻訳活動を補助した。なお、各活動に対して、観察者が行う教授活動を予め設定し、その有効性を確かめた。その結果、数学の成績上位・中位・下位群選出の3名すべてが、第4レベルの証明を構成することができた。
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