前年度の研究にて本研究者が以前に考察した3つの特殊なスペクトル間の距離を固有値問題として捉えることにより擬似距離の固有値に基づくクラスに至った。固有値を変換する関数の微係数に対する条件を課せば擬似尤度に基づく推測と漸近的に同等なものが構成できることがより明らかになった。一方では擬似尤度は本質的には尤度原理に対応するが、IID設定の統計的推測問題で知られているように、時系列でもある種のロバストネスが欠如していることに気づく。また、前年度提案したクラスではいわゆるカーネルスペクトル推定量を使用しなければ上記の結果は成立しない。したがって、漸近論ではバンド幅に対するオーダー条件を課すことにより理論構築に成功したのであるが、現実にはカーネルのバンド幅選択の問題が生じる。これら2点を念頭におき今年度後半からは、カーネル法を必要としない、かつ、ある種ロパストネスをもつ手法の検討に着手し始めた。まず、擬似尤度法と、時系列のスペクトルバージョンのL^2適合を滑らかに1パラメータによりつなぐ距離のクラスを見つけることができたが、これは今後の研究の基礎をなすと予想される。なぜなら、この導入された距離はカーネル法を必要としない、すなわち、ピリオドグラムを使用すればよいので、この場合は高次の漸近理論が可能になるからである。過去の高次の理論は正規定常過程の枠組みではモデルが正しいという設定に集中していたので、第1段階としてモデル誤りの状況下におけるピリオドグラム型統計量の漸近展開を導出した。
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