研究概要 |
生物試料中総スズの定量法を誘導結合プラスマ質量分析計(ICP-MS)を用いて検討した。生物試料を硝酸で湿式加熱分解し、溶液化したものを分析に供試した。本方法を使用する酸の種類・濃度、同重体イオン等の影響に関する項目で検証した。生物標準試料(NIES NO.11 Fish Tissue,NO.6 Mussel,NO.5 Human Hair)を用いて本分析法の精度を検証したところ、公表されたスズ濃度の参照値とほぼ一致した。乾物試料約100mgを硝酸でマイクロ波加熱分解し、純水で10mlにした場合、本法の検出限界は、10ng Sn/g-d.w.であった。本分析法は十分な精度と感度で、環境生物.試料の総スズを定量できると結論された。 本法を応用して、有機スズ化合物の海洋汚染の実態把握を行った。本邦近海、及び沿岸で捕獲された鯨類の肝臓に蓄積しているブチルスズ化合物の総スズ量に対する割合を調べた。スズは海水中に天然に含まれていることから、鯨類への天然のスズ暴露が大きいのではないかと予想されたが、肝臓に蓄積されているスズがかなりの割合でブチルスズ化合物に占められていることが分かった。特に、本邦沿岸に生息している種でその割合は高く、例えば、スナメリ(Neophocaema phocaenoides)で74%、バンドウクジラ(Tursiops truncatus)で90%であった。本研究の結果、ブチルスズ化合物の汚染は海棲哺乳類にまで進行し、本邦の人為的寄与が非常に大きいことがわかった。
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