研究概要 |
今年度は、昨年度確立に成功した変異supF遺伝子を確実に選択可能な変異体選択システムを用い、大腸菌の自然および誘発突然変異のスペクトルを検討すること、トランスジェニックマウス系の予備実験として、SupFをゲノムにもつ哺乳類細胞変異スペクトル解析系の樹立を目的とした。 成果1)M13ファージを用いたssDNAの調整を可能にすることで、変異選択後のシーケンスをスムースに行えるように、M13ファージの複製開始点であるf1 oriを導入した新しいplasmidpTN89を作成し、このplasmidと昨年度確立した変異選択システムを用い、活性酸素の消去酵素と鉄の取り込み調節タンパク質欠損大腸菌に生じる自然突然変異スペクトルを検討し、活性酸素による代表的なDNA損傷である8-oxoGに由来すると見られる、GC>>TA、AT>>OGが有意に増加することを確認した(布柴ら、1998;Obata et al.,1998)。成果2)また同様の系により発ガン性重金属のコバルトが誘発する変異スペクトルを解析した(Ogawa et al.,in press)。成果3)現在さらにこの系を応用し、標的supF遺伝子をplasmidの複製方向に対して、順・逆向きに導入した2種のplasmidを新たに作成し、突然変異の固定における複製鎖特異性を塩基レベルで解析する系を樹立した。活性酸素による代表的なDNA損傷である8-oxoGの修復系を欠いたmutMmutY株、ヌクレオチドプールの8-oxodGTPの分解系を欠いたmutT株を用い、DNAに8-oxoGがある場合の変異の固定に複製鎖特異性があるか否か、プールに存在する8-oxodGTPの取り込みに複製鎖特異性があるか否かを検討している。成果4)supF(+)をマーカーとしてのneo遺伝子とともに挿入されたλファージZAPII/supFneoを作成し、そのDNAをマウス乳がん細胞由来のFM3Aに導入し、哺乳類細胞変異スペクトル解析系の構築を試みた。ネオマイシン抵抗性を指標に、トランスフェクションされた細胞計11株について、PCR法とサザン法により、マウスゲノム中に取り込まれたλDNAおよびsupFのコピー数を推定したところ、突然変異解析系として用いるには十分なコピー数の細胞株は得られなかった。おそらくは、amber codonに対してTyrを挿入することでamber変異をサプレスするというsupFの性質が、amber終始コドンへのTyrの挿入を起こし、多コピー存在すると致死的に働くため、突然変異解析系として好ましいsupFが多コピー存在する細胞の樹立が困難であるものと思われる。
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