研究概要 |
わが国に分布するいくつかの森林植生下の上壌O層の呼吸速度を測定し,土壌呼吸速度に及ぼす大気CO_2濃度及び温度との関係を調べ,植生と土壌との相違により土壌呼吸速度の温度反応性に違いがみられるかどうかを明らかにしようとした。 土壌O層試料は,北海道利尻郡利尻町(利尻島),青森県西津軽郡鰺ヶ沢町ニッ森(白神山地),長野県小県郡真田町(菅平高原),鹿児島県熊毛郡屋久町(屋久島)及び沖縄県石垣市バンナ(バンナ岳)の5地点において,土壌断面調査および土壌試料の採取を行った。 採取したO層土壌試料は,実験室内において,純水で十分に湿らし,湿重30gずつ,内径15cmのガラス製大型シャーレに入れ,10℃,20℃,30℃のインキュベータ内で保温した。土壌呼吸速度の測定には独自に開発した温度制御型大型チャンバーを組み込んだCO_2フラックス測定装置を用いた。実験は5連で行った。 通気エアー中のCO_2濃度を0〜1,000μL・L^<-1>に変化させたときの各O層試料の呼吸速度は,どの試料の呼吸速度も通気エアー中のCO_2濃度が0μL・L^<-1>のときに高い値を示したが,通気エアー中のCO_2濃度が200〜1,000μL・L^<-1>のときには,その呼吸速度の変化は白神山地土壌を除いてほとんどなかった。白神山地土壌では,通気エアー中のCO_2濃度が高くなるにしたがって,その呼吸速度は低下する傾向を示した。呼吸速度の通気エアー中のCO_2濃度に対する応答が土壌試料によって異なったことは,その試料中の微生物フロラが違うことに起因していると考えられた。以上のことから,大気CO_2濃度が現在のような濃度範囲では,土壌呼吸速度に対してはその影響は少ないと考えられた。しかし,今後大気CO_2濃度が500〜1,000μL・L^<-1>へと急激に増加すれば,土壌によっては,その呼吸速度が低下するものと思われる。どのO層土壌試料の呼吸速度も,温度が高くなるほど高い値を示した。10℃のときの呼吸速度は,利尻土壌が一番高いのに対し,20℃では,石垣土壌が,30℃では屋久島土壌及び石垣土壌が高かった。このことは,気候条件が寒冷な利尻島では,比較的低い温度でも分解活性があり,逆に亜熱帯気候の石垣島では,低い温度では,ほとんど分解活性がないことを示している。また,白神山地土壌が全温度域を通じて呼吸速度が低かったが,それは白神山地土壌中の微生物フロラが非常に貧弱であることを意味していて,堆積腐植の分解速度も非常に遅いことが示唆された。各O層土壌試料の呼吸速度から求めたQ_<10>値は,気候がより温暖なところほど高かった。このことは,暖かいところの土壌呼吸速度が高温域でより増加したことに起因すると思われた。以上のことから,O層土壌の呼吸速度の温度依存性は高く,気温の上昇に非常に強い影響を受けることが明らかとなった。
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