研究概要 |
1、 タンパク質の同位体標識とその低温での構造 標的タンパク質である、Streptomyces subtilisin inhibitor(SSI)の同位体標識を、15Nを含む硫酸アンモニウムを唯一の窒素源として含む培地で大腸菌を培養することによって得た。これについて、15Nと1H即ち主鎖のペプチド結合に関する相関を、2次元NMRで温度を変化させ測定した。この結果、SSIは0℃という氷温付近に於いて、pH2.7以上では低温変性し構造を失っていること、しかしながら、pHをこれより下げるとnative構造とは異なった特異な構造体となることを、原子レベルの分解能で明らかにした。 2、 重水素ラベル法を用いた構造解析 上記の低温時の特異な構造を決定する際、問題となったのは、シグナルの重複であった。実際、直接決定は不可能であったので、間接的な重水素ラベル法を考案して適用した。これは、低温時に溶媒を重水から軽水(または、軽水から重水)へ変化させ、次にpHと温度をnative条件までジャンプし、測定容易な条件で、タンパク質中の交換不可能な水素、即ち内部に埋もれ構造を取っているアミノ酸残基を特定するものである。この結果、native構造に存在していた強固なβ鎖の内の1本は完全に失われていることなどを見い出した。 3、 リアルタイム測定による折りたたみ機構 折りたたみをpHジャンプまたは温度ジャンプで引き起こし、その後の過程をNMR法または、CD、蛍光法でリアルタイムに測定した。この結果、2段階以上の過程を見い出し、プロリン残基のシス-トランス異性化反応がどの段階に相当するか、また、それより遅い段階で3次構造が形成されることなどを明らかにした。 4、 他のタンパク質への適用 SSI以外のタンパク質(myoglobin,SNase,OspAなど)にも、上記手法の適用を試み、または適用のための基礎的データを得た。これより、タンパク質折りたたみ機構の一般的解明を現在も目指している。
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