転写を積極的に抑制する機能をもついわゆるactive repressor domainを利用して、既知の転写制御因子の標的となる遺伝子を単離するための実験系の確立を試みた。癌遺伝子産物/転写活性化因子Mafと、転写抑制因子Mxilのrepressor domainであるSID(Sin3-interaction domain)とのキメラ蛋白質SID-Mafは、期待されたように強い転写抑制能を示した。さらに、非常に強い転写活性化能を持つVP16 activation domainをMafに結合したキメラ蛋白質VP16-Mafを作製し、これらの転写活性化能とChicken embryo fibroblastにおけるtransformation能とを調べたところ、Mafの転写活性化能とtransformationとのあいだに明確な相関間係があることがわかった。すなわち、Mafの標的遺伝子の発現量は、通常の細胞とMafを強制発現させた細胞との差に比べて、SID-MafおよびVP16-Mafを発現する細胞間の差の方がより顕著であることが期待され、したがって、標的遺伝子を単離する上で有用であると考えられた。 実際に標的遺伝子を単離するには既存の技術であるSubtractionやcDNA micro arrayなどを利用することが考えられるので、現在これらのキメラMaf蛋白質を恒常的に発現している細胞の確立を進めている。また、これらのキメラMaf蛋白質の発現のON/OFFをコントロールできる系ができればMafの1次標的遺伝子のみを効率よく単離できるであろうと考えられるので、これも同時に試みている。 本研究で試みたSIDおよびVP16といった転写制御domainを利用する系は、モデルとして用いたMaf以外の転写因子についてもその標的遺伝子を単離する上で一般的に応用可能かつ有用である。
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