研究概要 |
1. 定量的RT-PCR法による神経栄養因子群の発現解析 昨年度に引き続きmRNA発現レベルの微量定量系を確立するため、サルの大脳RNAサンプルを用い、神経栄養因子群とその受容体群の遺伝子発現の定量解析を試みた。神経栄養因子群とその受容体群は神経可塑性に重要な役割を果たしていることが示唆されているものの、霊長類における大脳機能領域毎の詳細な発現レベルに関する研究報告はない。そこでニホンザルの大脳視覚各領野において、神経栄養因子群であるNGF,BDNF,NT-3,NT-4およびこれらの受容体trkA,trkB,trkCのmRNA発現レベルを定量的RT-PCR法により解析した。また、in situ hybridization法により上記遺伝子の領域・細胞層特異的発現様式を調べ、定量的RT-PCRの結果と合わせてマカクザルにおける神経栄養因子群のmRNA発現についての詳細な報告を行った。また,同様の手法を用いてラット海馬体の亜領域におけるBDNFおよびtrkB mRNAの定量解析も行い、海馬歯状回と内嗅皮質において対照的な発現パターンが見られることを報告した。 2. 認知長期記憶形成時における遺伝子発現解析 霊長類の認知長期記憶の形成に伴う遺伝子発現の変化を調べるため、視覚性対連合課題をニホンザルに課した。この際、ニホンザルには分離脳手術を施し左右の大脳半球の繊維連絡を遮断した。この分離脳サルを用い視覚刺激を左右の視野別に提示することにより、一個体内で実験および対照サンプルを得ることが可能となる。対照用の課題としては視覚性弁別課題を用いた。このようなサルの側頭葉連合野や傍嗅皮質、内嗅皮質などよりRNAを抽出し、定量的RT-PCR法により遺伝子の発現レベルを解析した。その結果、対連合課題学習時には傍嗅皮質において、Homerlveslやzif268などの前初期遺伝子群のmRNA発現レベルが上昇するという結果を得た。
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