研究概要 |
高次脳機能の行動科学/意欲:痴呆をめぐる心理的要因のうち,意欲について着目し,累積比率教科課題を用いて検討した.累積比率(progressive ratio:PR)強化課題は報酬刺激の強化値を測定する行動系として標準的に用いられており,課題の進行とともに要求反応数が上昇することを利用して,モティベーションの程度を測定し,意欲に及ぼす影響を評価することを試みた.PR課題のモティベーション測定系としての妥当性を評価するために,エサを強化子とするオペラント行動において重要な役割を果たすとされるDA系神経の終末領域である側坐核の破壊が及ぼす影響を検討した.側坐核の破壊はDA神経毒である6-OHDA(10μg/μl)を両側性に投与することで行なった.また,対象群にはvehicleを投与したものを用いた.はじめに,通常の学習課題で用いられる基準体重の85%での体重統制を行なったところ,6-OHDAによる側坐核破壊の効果は認められなかった.ところが,体重統制を緩やかにすることで「生きるためのエサ」と「豊かな食生活を実現するためのエサ」をより強く区別させることを試みたところ,95%体重統制群では側坐核に6-OHDAを投与することで,ブレークポイントが明らかに低カした.このことは,6-OHDAで側坐核を破壊することによって,あきらめが早くなたこと,すなわち意欲の低下を示すことを意味する.以上の検討結果から,意欲を評価する指標としてモティベーションを測定することが有用であることを明らかにすると共にその測定系を確立した. IN VIVO測定法による脳内情報伝達機能評価/神経情報伝達機能:脳内の神経伝達物質は神経活動の結果として放出されることから,神経活動を評価する目的でin vivo microdialysis法による検討を行なった.既に海馬ACh系,扁桃核DA系がライトのon/offを手がかり刺激とするオペラント型弁別学習(mult VI EXTスケジュール)の獲得によって活性化されることから,本研究では,シナプス可塑性への関与が強く示唆されているNOについて検討を行なった. 30日間の学習訓練終了後,ダイアシルス用埋め込みプローブを前頭皮質,海馬,扁桃核に埋め込み手術による影響が無くなったことを確認した上で学習課題遂行中のNO濃度を測定した.その結果,学習課題遂行中のNO濃度は何れの部位においても学習課題遂行前と比べて明らかな変化を認めなかった. 脳血流慢性低灌流ラットにおいて認められる細胞傷害のメカニズム解明/活性酸素系の関与:慢性低灌流ラットで認められる細胞傷害に活性酸素系が関与している可能性を明らかにする目的で慢性低灌流負荷1日,1,3,6,12週後の時点における脳組織中の過酸化脂質量を測定したところ,細胞障害が強く認められる線条体で負荷1-3週後において有意に増加していた.したがって,少なくとも線条体における細胞障害に活性酸素系が関与ことが示唆された.
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